オーステナイト系ステンレスの溶接割れとは?原因と防止策を徹底解説

オーステナイト系ステンレスの溶接割れとは?原因と防止策を徹底解説

ステンレス鋼はその優れた耐食性や美しい外観から、食品、化学、建築、医療など幅広い分野で使用されています。その中でもオーステナイト系ステンレス鋼は最も一般的ですが、溶接時に「割れ」が発生しやすいという課題があります。本記事では、オーステナイト系ステンレスが溶接中・溶接後に割れる原因、そのメカニズム、防止策、実務的なポイントを詳しく解説します。

目次

オーステナイト系ステンレスとは

ステンレス鋼は主に「オーステナイト系」「フェライト系」「マルテンサイト系」などに分類されます。このうちオーステナイト系ステンレスは、主に18Cr-8Ni(SUS304など)を基本組成とし、靭性・延性に優れ、磁性がほとんどないことが特徴です。

分類 代表鋼種 特徴
オーステナイト系 SUS304, SUS316 非磁性、耐食性高い、割れやすい
フェライト系 SUS430 磁性あり、熱伝導高い、割れにくい
マルテンサイト系 SUS410 硬化性高い、靭性低い

ただし、オーステナイト系は熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低いため、溶接時に応力が集中しやすく、割れの原因になります。

溶接割れの主な種類

オーステナイト系ステンレスに発生する割れは、大きく分けて以下の3種類です。

  • 液化割れ(ホットクラック):凝固中の不純物偏析が原因
  • 応力腐食割れ(SCC):溶接後に残留応力+腐食環境で発生
  • 延性低下割れ:δフェライト量不足による耐割れ性の低下

それぞれの割れは発生する時期やメカニズムが異なり、適切な溶接条件設定が求められます。日本溶接協会では、各種割れ防止のための溶接管理指針が公開されています。

液化割れ(ホットクラック)のメカニズム

溶接金属が凝固する際、S・Pなどの低融点元素が粒界に偏析すると、その部分が溶融状態のまま応力にさらされ、粒界割れが生じます。特に高Ni成分のSUS310Sなどではこの傾向が強まります。

この現象は、溶融線割れ凝固割れとして知られており、JIS Z 3150「溶接欠陥の分類」にも明記されています。

応力腐食割れ(SCC)

溶接後、残留応力と腐食環境(特に塩化物イオン)が重なると、応力腐食割れ(SCC)が発生します。オーステナイト系は特にこの現象に弱く、海水や高温水蒸気環境で問題になります。

防止には、応力除去焼鈍低残留応力設計が有効です。SCCのメカニズムは日本鉄鋼連盟の技術資料でも詳しく解説されています。

延性低下割れ

オーステナイト系の溶接金属において、δフェライトが不足すると、延性が低下して割れが発生しやすくなります。目安として、溶接金属中のδフェライト量は3〜10%程度が適切とされます。

オーステナイト系ステンレスの割れ防止策

1. δフェライト量の確保

適切な溶接材料を選定し、δフェライトを確保することで凝固割れを防止します。SUS304には308L溶接棒、SUS316には316L溶接棒を使用するのが基本です。

2. 低入熱・多層溶接の採用

入熱が大きすぎると高温割れが発生しやすくなります。低入熱・多層溶接を採用し、1パスあたりの熱影響を抑えることで割れリスクを低減できます。

3. 予熱と後熱処理

オーステナイト系ステンレスは一般に予熱不要ですが、板厚が大きい場合や低温環境では軽い予熱(100〜150℃)を行うことで残留応力を緩和できます。また、溶接後の応力除去焼鈍(1050℃付近)により、SCC防止にもつながります。

4. 適切な溶接姿勢と継手設計

下向き溶接を基本とし、応力集中を避ける継手形状を選定します。特に角継手やT継手では、余盛り部の応力解析が重要です。

5. 溶接材料の乾燥と管理

溶接棒・ワイヤ中の水分や油分は割れの原因となります。使用前には250〜300℃での乾燥を推奨します。JIS Z 3281では、被覆アーク溶接棒の取扱条件が定められています。

実務現場での対策事例

食品プラントのSUS304配管溶接では、過去に液化割れが多発しましたが、低入熱法とパルスTIG溶接の導入により改善されました。また、化学装置のSUS316Lでは、応力腐食割れ対策として溶接後の水洗・脱塩工程が採用されています。

改善効果の比較(事例)

対策前 対策後
割れ発生率 15% 割れ発生率 0.5%
再溶接多数 工程安定化

よくある質問


代表的なのは液化割れ(凝固割れ)で、溶け残った低融点成分が粒界に偏析して発生します。


δフェライト量の確保、低入熱での多層溶接、溶接材料の管理(Lグレード使用)、シールドガス管理などが有効です。


一般にオーステナイト系は予熱不要ですが、板厚が厚い場合や特殊組成では軽い予熱(100〜150℃)や後熱処理が検討されます。

まとめ:オーステナイト系ステンレスの割れは制御できる

オーステナイト系ステンレスの溶接割れは避けられない問題ではなく、材料選定・溶接条件・応力管理を徹底すれば大幅に防止可能です。

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